フリーランス新法が業務委託に与える影響を現役SESエンジニアが解説

案件・働き方

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2024年11月1日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」——通称フリーランス新法が施行された。フリーランスエンジニアとして業務委託契約で稼働している私も、施行前後で契約書や支払いフローに変化があったかどうか、実際に確認した。結論から言うと、条件が整ったエージェント経由の契約なら、新法の内容はすでに実態と合っていることが多い。ただし、知っておかないと損をするポイントも確実に存在する。

この記事では、法律の概要を分かりやすく整理した上で、SES案件・業務委託契約で実際に働いているフリーランスエンジニアが知っておくべき変化と権利を実務目線で解説する。法律の条文を正確に紹介しつつ、現場レベルで何が変わったかを書いていく。

フリーランス新法とは? 3分で分かる概要

フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下、フリーランス法)だ。2024年4月に公布、2024年11月1日に施行された。

制定の背景

日本国内のフリーランス人口は年々増加しており、内閣官房の調査では約462万人(2020年時点)とされている。しかし従来の法律(下請法・独占禁止法)はフリーランスの個人事業者を保護対象として明示していなかった。報酬の未払い・不当な減額・ハラスメントへの対処が難しいという課題が積み重なり、フリーランス専用の保護法が必要という機運が高まった。

対象となるフリーランスと発注者

フリーランス法の適用対象は以下の通りだ。

区分定義具体例
特定受託事業者(フリーランス側)従業員を使用しない事業者(個人・法人問わず)個人事業主のエンジニア・一人法人の代表者
業務委託事業者(発注者側)業務委託をする事業者全般エージェント・直クライアント企業
特定業務委託事業者(発注者側・強化版)従業員を使用する発注事業者、または二以上の役員を持つ法人である発注事業者従業員がいる企業・役員が複数いる法人・エージェント全般

重要なのは「従業員を使用しない」という条件だ。フリーランスとして個人事業主で稼働しているエンジニアはほぼ全員が対象になる。マイクロ法人を設立していても、その法人に従業員を雇用していなければ「特定受託事業者」に該当する。

なお「従業員」の定義は、1週間の所定労働時間が20時間以上・31日以上の継続雇用の予定がある労働者とされている。パートやアルバイトでも要件を満たせば従業員カウントになる点に注意が必要だ。

現役SESエンジニアが実感している5つの変化

フリーランス法が施行されて以降、SES案件で業務委託契約を結んでいる私が実際に確認・実感した変化をまとめる。

変化1:契約書の記載項目が増えた

フリーランス法では、発注者はフリーランスへの業務委託時に以下の事項を書面(または電磁的方法)で明示する義務がある。

  • 業務委託の内容
  • 報酬の額
  • 報酬の支払期日
  • 業務委託をした日
  • 業務の完了期日または役務の提供期間
  • その他の取引条件

この義務はすべての業務委託事業者(発注者の規模を問わず)に課される。個人事業主の発注者であっても、フリーランスに業務委託をする以上、書面交付義務の対象となる。書面交付以外の義務(60日支払いルール・ハラスメント対策等)については、発注者の規模によって適用範囲が異なる(後述の一覧参照)。

実態として、条件が整ったフリーランスエージェント経由の契約では、施行前から業務内容・報酬・支払期日を書面で明示していたケースが多い。ただし、個人の発注者から直接案件を受ける場合は書面交付が曖昧だったケースもあり、この義務化は直案件での交渉力を高める効果がある。

変化2:報酬支払期限が60日以内に明確化された

フリーランス法で最も注目される条項が「60日ルール」だ。

発注者はフリーランスへの報酬を、成果物・役務の受領日から60日以内(できる限り短い期間)に支払わなければならない。

従来は「月末締め翌月払い」などの支払いサイトが慣行として広く使われていたが、法律上の明確な上限がなかった。60日ルールが設けられたことで、フリーランス側が「この支払いサイトは法律違反ではないか」と確認する根拠が生まれた。

私の現在の契約では月末締め翌月末払いが基本で、これは受領から最長60日以内に収まる。60日を超えるような支払いサイトが設定されている契約は、フリーランス法違反のリスクがある。自分の契約書で支払期日の設定を確認しておくことをすすめる。

変化3:ハラスメント相談窓口の整備が義務化された

継続的な業務委託(1ヶ月以上の契約)を発注する特定業務委託事業者は、フリーランスへのハラスメント行為に対する相談対応体制を整備する義務がある。

具体的には、ハラスメントに関する相談窓口の設置・相談対応の方針策定・周知徹底が求められる。これはエンジニアが常駐するクライアント企業の社員からハラスメントを受けた場合、エージェント側にも対応義務が生じることを意味する。

実際に大手エージェントの多くは施行に合わせてハラスメント相談窓口をフリーランス向けに整備・案内した。案件参画後に現場でトラブルが生じた場合、エージェントに相談できる根拠が法律で担保されたことは大きな変化だ。

変化4:育児・介護への配慮が義務化された

継続的業務委託の発注者は、フリーランスから申し出があった場合に、育児・介護と業務の両立に配慮する義務がある。具体的には稼働時間の変更・業務量の調整などが想定されている。

フリーランスは会社員と異なり育児休業・介護休業制度がない。この義務化により、子育て中のフリーランスエンジニアが発注者に配慮を求める際の法的根拠が生まれた。

変化5:契約終了の30日前予告が義務化された

6ヶ月以上の継続的業務委託を中途解除したり、期間終了後に更新しないことを決めた発注者は、原則として解除・終了の30日前までにフリーランスへ予告する義務がある。

これはフリーランスにとって重要な変化だ。従来は「今月末で終了です」という突然の通知が法律上の問題にならないケースがあった。30日前予告が義務化されたことで、次の案件探しの準備期間が法的に保証される。

SES案件では通常1〜3ヶ月前に更新可否を通知するケースが多いが、この慣行が法律で裏付けられた形だ。もし30日を切った突然の終了通知があれば、違反として相談できる。

発注者(クライアント)側が対応すべき義務の一覧

発注者側の義務を整理しておく。エンジニア側が「発注者はこれをやる義務がある」と理解しておくことで、自分の権利を適切に行使できる。

義務内容対象となる発注者適用される契約
取引条件の書面交付業務委託事業者全般全業務委託
報酬の60日以内支払い特定業務委託事業者(※)全業務委託
禁止行為の遵守(不当な給付内容変更・減額等)特定業務委託事業者(※)全業務委託
ハラスメント対策体制の整備特定業務委託事業者(※)1ヶ月以上の継続的業務委託
育児・介護への配慮特定業務委託事業者(※)1ヶ月以上の継続的業務委託
中途解除・非更新の30日前予告特定業務委託事業者(※)6ヶ月以上の継続的業務委託
募集情報の的確表示業務委託事業者全般募集情報全般

(※)特定業務委託事業者とは、「従業員を使用する発注事業者」または「二以上の役員を持つ法人である発注事業者」のことを指す。フリーランスエンジニアが契約するエージェント・一般企業のほとんどはこれに該当する。

フリーランスエンジニアが主に関わるSES案件・業務委託は、ほとんどが1ヶ月以上の継続的業務委託に該当するため、上記の義務が広く適用される。

フリーランス側が知っておくべき権利と活用方法

フリーランス法はフリーランスを守るための法律だが、知っていなければ活用できない。実務で使える権利の確認方法を整理する。

契約書の支払い条件を確認するチェックリスト

案件参画前・更新時に以下を確認しておくと、フリーランス法に基づいた自分の権利が守られているか判断できる。

  • 業務内容・報酬額・支払期日が書面(メール・PDF等)で明示されているか
  • 支払期日が成果物・役務の受領日から60日以内に設定されているか
  • ハラスメント相談の窓口・連絡先がエージェントまたは発注者から案内されているか
  • 契約期間と更新・終了の予告ルールが契約書に記載されているか

フリーランス独立前の契約確認の詳細については、フリーランスエンジニアになるための完全ロードマップに具体的な手順を書いているので参考にしてほしい。

フリーランス法は「交渉の根拠」になる

フリーランス法の最大の実務的な価値は、単に保護されることではなく「発注者との交渉で法律を根拠にできること」だ。

例えば支払いサイトが60日を超えそうなケースで「フリーランス法の60日ルールに基づき、支払期日を60日以内に設定してほしい」と書面で依頼できる。実務上の慣行で曖昧になっていた部分が、法律という根拠を持って交渉できるようになった。

SESと直案件それぞれの契約特性についてはフリーランスエンジニアのSESと直案件の違いも参考にしてほしい。

違反事例・通報先・相談窓口

フリーランス法に違反した発注者に対しては、行政機関が指導・助言・勧告・命令等の措置を取ることができる。フリーランス側が相談できる窓口をまとめておく。

取引適正化に関する違反(報酬・書面交付等)

取引の適正化に関する規定(書面交付・60日支払いルール・禁止行為等)の違反は、公正取引委員会・中小企業庁が所管する。

就業環境整備に関する違反(ハラスメント・育児介護配慮等)

ハラスメント対策・育児介護配慮・中途解除予告等の就業環境整備に関する違反は、厚生労働大臣(各都道府県労働局)が所管する。

  • フリーランス・トラブル110番(相談無料・匿名可):0120-532-110
  • 各都道府県の労働局 雇用環境・均等部(室)への相談

報告を受けた行政機関は調査を行い、違反が認められれば指導・勧告・公表・命令という段階で対応する。悪質な場合は罰則(50万円以下の罰金)が科される規定もある。

まず弁護士・労働相談窓口に相談する

行政への申告よりも先に、専門家への相談を検討することをすすめる。法テラスの無料法律相談や弁護士への初回相談(30分無料が多い)を使って「これは違反にあたるか」を確認してから動くのが確実だ。感情的に動いて関係が悪化するより、専門家の意見を踏まえて対処するほうがリスクが低い。

フリーランス新法時代の案件選びで重視すべきこと

フリーランス法の施行は、フリーランスエンジニアの案件選びの基準にも影響を与える。法律が整備されても、実際の運用は発注者・エージェントによって差がある。

フリーランス法対応を明示しているエージェントを選ぶ

大手フリーランスエージェントの多くは、フリーランス法施行に合わせて契約書の見直し・ハラスメント窓口の整備・フリーランスへの説明資料の整備を行っている。エージェントを選ぶ際に「フリーランス法への対応状況」を確認することは、安心して働ける環境を選ぶための一つの指標になる。

複数のエージェントを比較しながら案件を選ぶことで、法的な保護が確実に受けられる契約形態を選択しやすくなる。フリーランスエージェントの比較・複数登録についてはフリーランスエージェントは複数登録すべき?使い分け方を解説を参考にしてほしい。

契約書を面倒くさがらずに読む

フリーランス法が整備されても、個別の契約書の内容はケースバイケースだ。「大手エージェントだから問題ない」と思って読み飛ばすのは危険だ。特に確認すべきは以下の点だ。

  • 支払期日が60日以内に収まっているか
  • 契約終了・更新しない場合の予告期間が記載されているか
  • 業務範囲・成果物の定義が曖昧でないか
  • 損害賠償の上限条項が設定されているか

年収・待遇が明確な高単価エージェントが「新法時代の自衛策」になる

フリーランス新法は「守られる権利」を明確にしたが、実際に守られる環境に身を置くかどうかはエンジニア自身の選択にかかっている。条件が明確で高単価の案件を多く持つエージェントを選ぶことが、フリーランス新法時代における最も確実な自衛策だ。

実際に私が使っているエージェントのうち、契約条件の明確さと案件単価の両方で評価しているのがITプロパートナーズとフリーランスキャリアだ。いずれも面談を通じて具体的な条件確認ができ、書面交付・支払いサイトの明示という点でフリーランス法の趣旨に沿った対応をしている。

まとめ:フリーランス新法はエンジニアにとって「権利の確認チャンス」

フリーランス新法が施行されてから約1年半が経過した。法律の認知率はまだ決して高いとは言えないが、知っているだけで自分の権利を守れる場面が確実に増える。

  • フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。2024年11月1日施行
  • 対象は「従業員を使用しない事業者(フリーランス)」と「従業員を使用する、または二以上の役員を持つ法人である発注者(特定業務委託事業者)」の取引
  • 主な変化:書面交付義務・60日支払いルール・ハラスメント窓口整備・育児介護配慮・30日前予告
  • 違反は公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働大臣(都道府県労働局)が所管
  • 相談窓口:フリーランス・トラブル110番(0120-532-110)
  • 案件選びの判断軸に「フリーランス法対応の明確さ」を加えることが現実的な自衛策

フリーランスエンジニアとして安定して稼ぐためには、スキルと案件の質だけでなく、契約の安全性も同じくらい重要だ。自分の権利を知って、適切な環境を選ぶことがフリーランス新法時代の正しい動き方だ。

以下に、契約条件が明確で高単価の案件を多く持つエージェントをまとめておく。面談を通じて具体的な条件確認ができ、フリーランス新法の趣旨に沿った対応をしているエージェントとして紹介する。

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